G米軍野戦病院跡辺り

大城貞俊(詩人・作家)著

ジャンル[戦後史・沖縄論・小説]
2008年4月25日発行
四六判上製・252頁
定価:1,900円+税 
ISBN 978-4-903174-17-4 C1093

[カバー装画:根本有華]

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沖縄の戦後は終わっていない!
戦後を生きてきたのは、なんのためだったのか……。

 永く平和な美(ちゅ)ら島、美(ちゅ)ら海の沖縄島嶼群が、やがて日本本土の防波堤として、日米最後の決戦場となってゆく。1944年10月10日、沖縄島の那覇を中心に、米艦載機・グラマンなどの猛烈な空襲爆撃を受け、凄絶な沖縄戦がはじまり、「ありったけの地獄をまとめた戦場」と化した。「情け容赦もなく鬼や獣のようである」と教えられていた敵軍が上陸して、行き場を失った島の住民たちは、日本軍の関与によって「集団死」に追い込まれる。あれから64年、今なお、あの戦火に追われた日々がよみがえる。「永劫の旅人」となった、あの人たちの魂は天に還れたのだろうか。土に帰った死者に捧げる島人(しまんちゅ)の聖なる祈りは、とこしえに続く。あの日の記憶は死ではなく、生きているのだから。
 現代沖縄の詩と小説の世界に、繊細にして強靭な言霊を発し続ける大城貞俊が、“置き去りにした島”の光と影、島人(しまんちゅ)の生と死を、温かく、優しく、そして静かに伝える。
 植民者よ、ヤマトよ、覚醒めよ。
[参照文献:高等学校 琉球・沖縄史(新訂・増補版、2004) 沖縄歴史教育研究会・新城俊昭


あらすじ

 沖縄戦も終わりに近い頃、米軍は沖縄本島北部のG村に野戦病院を設営した。ここには、重傷の患者が集められたが、多くはテントの中で次々と死んでいった……。戦後60余年、あの戦争は、どのように人々に刻まれているのだろうか。本作品は、G米軍野戦病院跡辺りを巡る4つの物語で構成され、今なお戦争に翻弄されて生きる人々の姿を描き出す。

[作者のことば] 沖縄から書くことの意義  大城貞俊

 沖縄の地は、去る大戦で地上戦が行われ、兵士だけでなく、県民の三分の一ほどが犠牲になった。戦後も、米軍政府の統治下に置かれ、様々な辛酸を嘗めてきた。戦争という体験は、土地の精霊をも巻き込み、今日までも、人々の生き方を規制している大きな要因の一つになっている。
 沖縄の現在を考えれば考えるほど、この戦争体験を抜きにすることは出来ない。沖縄の人々の生き方を凝視すればするほど、死者を忘れない土地の特質に出会う。虐げられ、苦しめられ、悲しみの極致にいてもなお、死者との再生とも喩えるべき優しさを有している。私は私が生まれ育ったこの土地に、畏敬の念を感じると同時に大きな魅力を感じている。
 考えてみると、このことは、私が、生き続けることの要因の一つにもなっている。私は団塊の世代と呼ばれ、全共闘世代とも呼ばれ、学園民主化闘争と、政治闘争を、二十歳前後に体験した。さらに沖縄の地であるがゆえに、復帰・反復帰闘争や、反安保闘争のラジカルな洗礼を受け、生きることの意味を鋭く問いつめられた。
 私は、そんな中で、目の前に露見した状況に戸惑うばかりで、詩の表現を免罪符のように獲得して悩んでいた。自らの卑小な存在に、生き続けることさえ疑うようになっていた。「ぼくは二十歳だった。それが人の一生で一番美しい年齢だなどとだれにも言わせない……」と、ポール・ニザンの『アデン・アラビア』の一節を口ずさみながら。……
 私は、沖縄の地で生まれ、沖縄の地で育ったことを、表現者としては僥倖のように思っている。死者をいたわるように優しく葬送する一連の法事や、また沖縄戦をも含めて、死者を忘れない共同体の祭事やユイマール(相互扶助)の精神に守られて、私もまた、生かされているように思う。
 もちろん、それゆえに、抑圧的な権力や戦争に無頓着ではいられない。それは過去だけでなく、現在や未来にまでも繋がっていく視点だ。
 私は今、沖縄の地で生きる時間と空間の偶然性を宿命のように感じている。この地にまつわる矛盾や課題は、それぞれの方法で担う以外にない。この地で生きる人々の苦悩や喜びは、普遍的な苦悩や喜びである。戦争を描くこともまた、人類の普遍的な課題である。

平成二十年 春

大城貞俊(おおしろ・さだとし)

1949年 沖縄県生まれ。1972年 琉球大学法文学部国語国文学科卒業。開邦高校教諭、県立教育センター研究主事、県教育庁県立学校教育課指導主事を歴任。現在、昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭。琉球大学非常勤講師。
「沖縄県ハンセン病証言集」編集委員会委員長。『詩と詩論・貘』主宰。
詩人・作家。
主な著書
詩集『夢・夢夢(ぼうぼう)街道』
評論『沖縄・戦後詩人論』
評論『沖縄・戦後詩史』(沖縄タイムス芸術選賞文学部門奨励賞受賞)
小説『椎の川』(沖縄県具志川市文学賞受賞)
小説『山のサバニ』
詩集『或いは取るに足りない小さな物語』(第28回山之口貘賞受賞)
小説『記憶から記憶へ』
小説『アトムたちの空』(第2回文の京文芸賞最優秀賞受賞)
小説『運転代行人』(第24回新風舎出版賞優秀賞)ほか
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