「海防僧 月性 明治維新を展いた男」に関するレビュー
知られざる時代の先駆者を、
丹念に緻密に描いた力作!
西欧諸国のアジア侵略によって、わが国も植民地化されていく危険性が募っていた幕末、このままでは日本は滅ぶと一貫して海防の重要性を説いて全国を奔走していた傑僧・月性。多くの長州の傑物の中でも、あまり知られていない人物であるが、本書はこの傑僧に焦点をあて、その人物像とその時代像をよく描き切っている。
攘夷と開国、尊王と佐幕が錯綜しつつ激動する幕末という切迫した時代相にあって、一貫して尊王攘夷、尊王倒幕を主張し、その方策として草莽崛起(そうもうくっき)による防衛を説いた見識は時代を先駆けていたと言える。
奇兵隊の創始者は高杉晋作ではなく久坂玄瑞であり、それに影響を与えたのは月性だったというのは驚きである。久坂ばかりでなく、吉田松陰にも深い影響を与え、両者とも頼りにしていたというのも初めて知るところである。
雄渾清明、奔放な月性の漢詩を交えつつ、丹念に緻密に書かれた本書は、維新回天の激動の時代を、一人の僧の生き抜いた軌跡を通して描いた力作である。
小林道憲(こばやし・みちのり)
哲学、比較文明論。元福井大学大学院教育学研究科教授。著書に、「著作集〈生命(いのち)の哲学〉コレクション」全10巻[『文明とは何か~文明の交流と環境』『世界史的観点から現代を考察する~二十一世紀への道』等を含む] 『歴史哲学への招待』『文明の交流史観』(ミネルヴァ書房)など)
月性の人生を通じて、
正しく歴史をみてほしい。
現在の柳井市(山口県)出身で、幕末に独自の海防論を説き、維新の志士らを育てた僧・月性(げっしょう・1817~58)の生きざまと当時の時代背景を描いた本『海防僧 月性 明治維新を展いた男』を、元本紙記者の秋田博さん(86・川崎市)が出した。「維新に大きな影響を与えた月性を、多くの人に知ってほしい」としている。
月性は同市遠崎の妙円寺に生まれ、外国の脅威に備える必要性などを説き、吉田松陰らに先駆けて、倒幕を唱えた。また、同寺の境内に開いた私塾「清狂草堂(せいきょうそうどう)」で、奇兵隊第3代総督の赤禰武人(あかね・たけひと)らを育てた。
秋田さんは上関町出身で、読売新聞東京本社経済学部次長などを務めた。記者時代から月性を研究し、2011年にも『周防(すおう)人 月性 謹んで申す』を出版。今回は月性が残した漢詩や藩宛ての建白書を再度読み込み、大幅に書き直した。
秋田さんは、「月性の魅力は、時の流れに敏感な感性」と話す。島国・海洋国の史観に立った危機意識は、現代にも通じると指摘し、「明治維新150年の節目に、月性の人生を通じて、正しく歴史をみてほしい」と願う。
2018年4月11日、読売新聞(読売新聞西部本社、山口県・岩柳版)(地域欄)より