「連作 後白河法皇 下 阿波内侍から島倉千代子へ 祈りの響き」に関するレビュー
新しい文芸! 稀有な歴史物語。
作品は、詩のような発想のエッセイ風歴史小説、音楽、批評文学なのか、ジャンルを越えているようで、いやジャンルを統括した新しい文芸のようにも見えます。
後白河法皇が、義経・義家に頼朝追討の宣旨を発したことを知った時、頼朝は法皇を「大天狗だ」と叫んだ、そうですが、日本の歴史は、台頭する源平勢力を粘り強く駆け引きを繰り返した後白河法皇を、「公武を安定化させる大きな調整力を発揮した」と、見ています。
それにしても源平の武士団はじめ変転する時代の波のなかで多くの無念の血が冥界に消えて逝きました。その後、この世と冥界を行き来する怨霊を琵琶法師の身になって語った稀有な歴史物語(ヒストリア)と有りますが、まさに言い当てた帯の言葉でした。
多くの歴史を積み重ねた一千年の古都、京都に長年住まわれた高野氏にして、はじめて良く上梓できた連続作品です。心より敬意を表します。
それも、言うまでもなく人文書館の協力あればこそです。
太古より今日まで地続きの歴史を、琵琶法師の心で物語を紡ぐ手法が見事であり、これが新しい文芸なのでしょう。
私の郷里に近い周防大島出身の奈良本辰也先生と高野氏との奇遇について、拍手を送りたいです。宮本常一さん、星野哲郎さんら皆幽明を分けていますが、奈良本先生の著書は生前より書架に何冊も掛かっています。まずは高野氏の完結編の上梓に感謝し、重ねてお礼申し上げます。
(元読売新聞記者、日本エッセイスト・クラブ会員)