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「生命(いのち)の哲学」に関するレビュー

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『生命の哲学』
小林道憲 著

価値ある人生
自らの拠り所を求めるために

 あまりにも不条理な事件が頻発している昨今、私達はどのような心構えをもって生きていけばよいか、立ちすくんでいる時代ではないでしょうか。確かに、現代は〈生きるということ〉が問われている時代だと思います。
 このような時代だからこそ、軽佻浮薄(けいちょうふはく)な世相に迎合せず、地にしっかりと足をつけ、自分自身の拠り所を求め続けていくことは、価値あることだと言わねばなりません。そのためには、ものごとについて深く思いをめぐらすこと、哲学することこそ必要なのではないでしょうか。
 私は、今まで〈現代文明の考察から生命哲学へ〉という方向で思索を重ねてきましたが、本書にも、一貫して〈現代とは何か〉〈生命とは何か〉という問題意識が流れています。生命の神秘性が剥奪されてきている時代に、〈生命とは何か〉ということを問い続けてきた私のこれまでの思索は、〈生きているということ〉をさまざまな局面から理解していく〈生(せい)の哲学〉だと言えます。
 私の哲学の根幹にあるものは宗教哲学です。本書の中でも、例えば、法華経で説かれている久遠実成の仏を、宇宙の永遠の生命として理解しています。私達は、この久遠実成の仏の大生命に生かされています。
 本書は、今まで書いてきたものの中から、現代、古代、生命、倫理、宗教などに関する代表的な文章を六篇ほど集めて編集した精選集です。今回は、編集者のプロデュースもあって〈語り下ろし調〉にし、一般市民教養層の方々にも読んでいただけるように書き直してみました。
 どこか実在感の希薄な、不安な時代を迎えていますが、本書がこれからの時代への何らかのメッセージにでもなれば幸いに思っています。
(小林道憲・福井大学教授)

『聖教新聞』2008年11月26日(水) 読書欄「きのうきょう」 より

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