「増補復刻版 イラン人の心 詩の国に愛を込めて」に関するレビュー
「心と心には道がある」(ペルシアの箴言〈しんげん〉)
異なる文化を持つ人々と心を繋ぐために。
著者・岡田恵美子氏の人生をかけてのイランへの讃歌が、心に強く伝わってきます。イラン人の誇りとは何か、と問えば、それは詩だ、という、皇帝は消えて無くなるが詩は残る、という。それも一官僚の言葉とか。岡田氏の言われる「心と心には道がある」、というキーワードも、四行詩の結句のような気がします。
闇は悪魔、闇は悪鬼、闇は老齢であり、死である。この闇があるからイラン人は光を切に求めるのだろう、と述べられ、そして「廻る天輪」の詩が紹介されている。人生に無駄なことは一つも無い、と思いつつも、「過去に 未来に 何を求めるか 孤独を友として 現世の相(すがた)を視るがよい」と突き放される。
そして「この世はむなしい、執着の心を持たず、あの世の平穏を求めて、いさぎよく旅立つがよい。ひと握りの土から作られたこの身は、また土に戻ってゆくだけのことだ」と、11世紀生まれの詩人オマル・ハイヤームの四行詩(「ルバーイヤート」)が紹介されてあり、イランの地勢と文化の深さを考えさせる。
岡田恵美子さんの名著復刻は、人文書館に最も相応しい大変良いお仕事でした。白と青色を基調にした装幀は、この文学書にぴったしで手に持つと心豊かになります。
出版不況の中、これこそはと思われる名著の復刻は、沈滞の読書界に新しい市場を開く機縁になりはしないか、ふとそんなことを思ったりしました。
何れにしましても、イランの地勢、文化風土を踏まえた岡田氏の文学作品は、今日の緊迫した世界情勢の中だけに、余計に意味深く感じます。
秋田 博(元読売新聞記者、日本エッセイスト・クラブ会員)