「木が人になり、人が木になる。」に関するレビュー
変わる人生観!
山川草木、鳥獣中魚など万物にカミや霊魂が宿るとする宗教をアニミズムと呼ぶ。自然を克服して文明・文化を作った近代西洋人には理解されにくいが、日本人なら何となく腑に落ちる。世界を歩いた文化人類学者が、さまざまな民族文化や歴史事例を挙げて、また現代日本に生きる自らの日常の逸話から、アニミズム的な人の営為を捉え直し、人生観や自然観の変更を促した本。知識の解釈ではなく、存在の内側にあるものに語りかける経験の言葉が時代の転換期に静かな説得力を持つ。2005年刊、現在二刷。
『東京新聞・中日新聞』2009年8月9日(日) 読書欄 より
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岩田慶治さんの『木が人になり、人が木になる。』を読んで。
『信濃毎日新聞』2006年5月24日付日刊(斜面)より
木々の緑が濃さを増した。見詰めていると元気がわく。木と人のつながりを知るために、岩田慶治さんの本「木が人になり、人が木になる。」(人文書館)を読んでみた。
著者は文化人類学者で、国立民族学博物館名誉教授である。東南アジアの少数民族の村で、社会や文化を調べてきた。身近な木にも目を向け、ハクモクレンの木肌に手を触れ、タイサンボクの枝にぶら下がる。木の精が体に注ぎ込まれたように思ったという。
岩田さんは、自然を尊重する世界観の大切さを説く。木にも石、鳥、虫にも「カミ」が宿ると考えるアニミズムの再評価である。人間中心のシステムで自然を征服し、利用しつくす行動を批判する。研究が評価されて、今年の南方熊楠(みなかたくまぐす)賞に輝いている。
熊楠(1867-1941)は生物学者で民俗学者だ。米英に渡り動植物学を研究。帰国後は今の和歌山県田辺市で粘菌類などの研究を進めた。スケールの大きさと、権威や常識にとらわれない言動で知られる。数限りない一切のものごと「森羅万象」を見詰めた。アニミズムを森羅万象教とも呼ぶ岩田さんの受賞は似つかわしい。
「森のなかで暮らすには簡素な衣・食・住でこと足りる」。岩田さんの本の一節だ。自分の家にため込まなくても、森には多くのものがそなわっている。お金が頼りの都会暮らしとは違う世界だ。木や森たちにもっと溶け込みたくなる。
木になる人
秋道智彌
これから出る本 2006−No.1 〈本の周辺〉
岩田慶治氏の最新刊『木がひとになり、人が木になる──アミニズムと今日』(人文書館、二〇〇五年)を読んだ。思えば氏のアミニズム論の原点とでもいうべき『草木虫魚の人類学』(淡交社)を手にしたのはずいぶんと前のことだ。
あれから三十数年。本書の冒頭にある「今、新しい自然観が求められている」の問いかけは、現在、地域や地球全体に突きつけられている。多くの読者はそのことばにさまざまな思いを抱くだろう。
私は現在、京都にある総合地球環境学研究所で東南アジアの環境問題についてのプロジェクトを進めている。この研究所では、中国の雲南やラオス、北タイを調査地とし、ここ六十年ほどの間に起こった自然と社会の急激な変化のなかで人間の関わりの歴史として描き出すことを目指している。東南アジアでは自然の破壊と改変が顕著であり、住民の暮らしはそれに翻弄されてきた。これには政治秩序の転換、度重なる戦争、経済のグローバル化などが複合的に関与している。その連鎖を歴史のなかで読み解く鍵はどこにあるのか。
ひとつの大きなヒントが岩田氏の語りにあった。それが人間中心主義からの訣別であり、森とともに暮らしてきた民族の文化から、森の声、森の思想を読みとる哲学である。小学生の時にコローが描いたエッチングの木に魅せられ、それ以来、木が大好きになったという。氏の思索の核心は、木と森を語る一本の道にほかならない。
「木と対話し、一体化する」ことは荒唐無稽なおとぎ話ではない。それは森の民のいとなみへの注目であり、大規模開発への痛烈な批判なのだ。開発か保全かのパラダイムを超えるためにも、「人間のこと」しか考えていては駄目なのだ、と。このことばは重い。
『木が人になり、人が木になる。 アニミズムと今日』
出版ニュース 2006年1月下旬号 ブックガイドより
著者は国立民族学博物館名誉教授で、これまで文化人類学の調査・研究を行ってきた。なかでもアジア各地のアニミズムに詳しく、また道元などに関する著作も多く、その道の泰斗として知られている。
本書は、その活動の折々に新聞や雑誌に書き綴ったものを集めたもので、全体を貫くテーマはアニミズムであり、宗教ということになろうか。アニミズムとは木にも、石にも、虫にもカミが宿っていることを認め、そういうカミでいっぱいの自然を尊重しながら生きることで、このなかでは木も人もお互いに仲間として生きているということになる。ところが、現代は文化という籠の中に人間が閉じ込められ、人間は自然を感じることができなくなっているという。この文化を越えた世界がまさにアニミズムの世界で、文化の籠を超えてこの世界に出入りすることで、人間はよりよく生きることができるようになると著者は説いている。