ブックレビュー

「日本精神史」に関するレビュー

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読みたい本・お薦めの1冊!
現代への強い危機感、思想家ら簡潔に紹介

 高校の日本史教科書には、思想家や宗教家の名前と著作がいくつも載っている。私はそれらの本をたくさんは読んでいない。本書は各人物と著作の内容を簡潔・的確に紹介している。それがまずありがたい。思想家らの生没年が西暦でしっかり入っている。
 著者上松佑二(あげまつ・ゆうじ)さんは長野市出身で1942年生まれ。建築思想家として知られ、東海大学の名誉教授。オーストリアの思想家で建築家のシュタイナー(1861~1925)の影響を受け、建築家でありつつ精神史研究を深めてきた。
 現代日本に対する著者の強い危機感が感じられる。2011年の東日本大震災で原発事故が起きた。それなのに原発再稼働や原発産業の他国への売り込みは「無思想、無節操」とみる。日本人精神の在り方が問われているとして、その問いに答えようとするのが本書だと述べる。
 日本人の精神は古代、中世、近世、近代へとゆったりと発展してきたと捉える。夢見のような状態から、次第に目覚め、やがて昼の覚醒の状態に至る人間の精神の発展だとする。章の編成もそれに沿っている。
  序にかえて 生のあやうさを超えて―未来へ、新しい自我を求めて
  第一章 先史時代の精神『古事記』―天地初めて発けし時、そして、それから
  第二章 古代の精神―律令と仏教文化、叡智の誕生
  第三章 中世の精神の系譜―浄土思想から禅へ
  第四章 近世の精神―意識的魂の時代
  第五章 近代の精神―闇から光の時代へ
  結びに 現代―混沌たる世界を、いかに生きるか
 記述の中で私が特にひかれた人物3人と著作を挙げておく。
 安藤昌益「自然真営道」。貧富の差や支配・被支配関係のないユートピアを構想。徳川時代の封建イデオロギーを批判する思想を抱きながら、町医者として生きた。
 内村鑑三「余はいかにしてキリスト教徒となりしか」。無教会キリスト教を唱え、非戦主義者だった。
 鈴木大拙「日本的霊性」。東洋思想を世界に広めた。金沢市に鈴木大拙館がある。9月下旬に訪れ、本書と相まって理解が深まった。
 上松さんは現代の日本の精神文化はあまりにも経済に依存しすぎて、経済から自由に考えることができないでいるとみる。「普遍的・人間的な社会を築く為には、自由な精神と、あらゆる人に平等な政治と、弱者に対する友愛の経済が互いに有機的に作用しなければならない」との記述に共感した。

三島利徳(文化ジャーナリスト・元信濃毎日新聞論説委員・カルチャー文章講師・「農民文学」編集長)

『週刊長野』(2017年10月14日「読みたい本・お薦めの1冊」より。週刊長野新聞社)

マクロコスモスの中にミクロコスモスをみる。
親鸞や千利休に絶対の個体主義をみる!
類書なき日本精神史!
シュタイナーの人智学の観点があればこそ!

 上松佑二氏の『日本精神史』を一読、いわゆる日本思想史に関する類書にはない特徴をもった日本精神史だという感想をもった。古代から現代まで簡潔に論述されていて大層読みやすく、決して堅苦しいものではない。それもみなシュタイナーの人智学の観点があればこそだとも思えた。
 ミクロコスモスの中にマクロコスモスをみ、マクロコスモスの中にミクロコスモスをみるというところで一貫していたところが散乱を防いでいる。
 親鸞や利休に絶対の個体主義をみる点も教えられるところがあり、これもマクロコスモスの中でみられていればこそである。
 神儒仏に源泉をもつ日本思想を、単に日本思想にとどめずキリスト教とも連結をとって叙述されている点が本書に普遍性を与えている。

小林道憲(こばやし・みちのり。哲学、文明論。元福井大学教授。著書に、「著作集〈生命(いのち)の哲学〉コレクション」全10巻(ミネルヴァ書房)など)

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