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「せんせぇ!──なんなァ 呼んだだけな。」に関するレビュー

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『せんせぇ!──なんなァ 呼んだだけな。』を読んで

 この本を読んで、子どもは可能性のかたまりなのだ、学校は人間関係を経験するために行くところなのだ、と感じました。成績の善し悪しとか、目立つ子か否かとか、そんなことは瑣末なことで、一人ひとりが社会を構成するかけがえのない存在で、誰しも活かし方次第で、その人固有の輝きを発揮することができるのでしょうね。
 教育には、「これを、こうすれば、間違いなくうまくいく」というような方法はどこにもなくて、一人ひとり違う子ども相手の、毎日がライブ活動であり、教師は可能性を相手にする、この世で一番面白い職業の一つなのだろうと感じます。また、この本自体の構成が様々なエピソードを丁寧に織り上げていくようにできていて、様々なジレンマを抱えつつも、子どもたち一人ひとりとその瞬間を大切に向き合っていく、著者の教育における姿勢を象徴しているように思えました。
 個人的には、「せんせぇ、いてえか」と、自分のことのように人のことを心配してくれる子の、純粋な優しさが非常に魅力的で、惚れてしまいそうでした。(なんて優しい子なんでしょう。きっとステキな大人になったことでしょうね)

Y・H(少年写真新聞社 上智大学・加藤恭子の「ノンフィクションの書き方」講座受講生)

2014年10月1日

子どもを大切に育てる教育を!

 学校のさまざまな場面で生徒と向き合い、戸惑い、悩み、そしてようやくたどり着く。そんな生徒へのまなざしが行間にあふれている。学校は生徒を教える場というだけでなく、教師にとっても「学びの場」であると実感することができる。
 著者は長野県内の小中学校で教え、教頭、校長を務めた。38年間、義務教育に携わったことになる。教育実践では特に「担任教師のやるべき仕事」を追求し、「どの子も互いを尊重し合うクラスづくり」を目指した。
 「第一の話」から「第九の話」まであって、それぞれの話に「比較なしの“一番”──人間の尊厳をめざして」「せんせぇ! なんなァ。──豊かな人間性のために」などのタイトルが付いている。中には話のテーマとも言える「授業のあり方は」「生徒指導のこと」「家庭教育をめぐって」のようなタイトルもある。
 著者の心を映すような描写を、結論だけ引用しても味わいがないが、例えば生徒や親が宿題をどう見ているか、教師はどう考えるかである。結論として「どんなにいいと思われることでも、強制しつづけると自ずとマイナスのことも生じる。何でもかでも、子どものうちに躾けなくてはの論も、浅薄さを免れないこともある」と述べている。
 「競わせて『負けるな』を有力な教育手段としてはいけないのではないか」「(ノート指導で赤ペンを入れるより)見本を示すのがコツである」「教育とは子どもを大切に育てること」など。

小川吉造(おがわ・きちぞう)・エッセイスト

2014年7月11日、時事通信社「内外教育」(新刊案内)より

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