スピノザ
ある哲学者の人生
ジャンル[哲学・思想・伝記]2012年3月発行
四六判上製カバー装 648頁
定価:6,800円+税
ISBN 978-4-903174-26-6 C0010
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スピノザ・ルネサンスふたたび!
私は現にある、私は存在する。
人間は、自然の一部である限り、
自然の法則に従わなければならない。
*『倫理学(エチカ)』──注意せよ!
「自由の人は死のすべてを最小に思惟する。そしてその叡智は、
死についてではなく、生についての瞑想である」(『エチカ』第四部)
*混沌とした不安の時代のなかで、
生のあやうさを超えて、いかに生きるのか。
*近代哲学の礎となった、スピノザという過激なフィソロファー、
知を愛する者の生涯と思想。
*畢生の訳業3年、ついに完訳!
バルーフ・デ・スピノザ(1632〜77)は、アムステルダムのポルトガル人ユダヤ教徒共同体に所属する高名な商人の息子だった。彼はその共同体の学校の優秀な学生の一人でもあった。その人生の23年目のあたりで何かが起き、そのことがアムステルダムのポルトガル・スペイン系ユダヤ人の指導者層によって、それまでに下された中の、最も峻烈な破門の引き金となった。かくして彼は、いつの時代であれ、最も重要にして著名な哲学者の一人に、そして彼自身の時代における、最も革新的で論議の絶えない存在となる。平凡なユダヤ教の少年から、伝統破壊の哲学者への、この青年の変身ぶりは、おそらく永遠に、私たちには隠されている。したがって私たちは、彼の感情と知性の発達について、そして一人の人間をうずめてゆく世俗的な事柄について、想像をめぐらせる以外にない。形而上学と倫理学の哲学者、政治と宗教の思想家、聖書解釈学者、社会批評家、レンズ研磨職人、挫折した商人、オランダの知識人、ユダヤ教徒異端者。スピノザの人生をかくも興味深いものにしているものは、その人生が根差していた、ときに相反する多様な文脈である。(本書「まえがき」より)
人間の幸福とは何かを探求し続けた「異端思想」と「邪悪な意見」の持ち主と見做された孤高の哲学者スピノザとはなにものか。本書は、詳細な資料調査を基礎とする、遺漏なく語られた完全なスピノザの伝記。
[内容構成]
第一章 | 定住への道 |
---|---|
第二章 | 大伯父アブラハムと父ミカエル |
第三章 | 祝福されし者──ベント/バルーフ |
第四章 | タルムード・トーラー学校 |
第五章 | アムステルダムの商人 |
第六章 | 破門[ヘレム] |
第七章 | ラテン語の名において──ベネディクトゥス |
第八章 | ラインスブルフの哲学者 |
第九章 | 「フォールブルフのユダヤ人」 |
第十章 | 政治的人間[ホモ・ポリティクス] |
第十一章 | 静寂と騒乱のデン・ハーグ |
第十二章 | 「自由の人は死のすべてを最小に思惟する」 |
[訳者解題] スピノザの「人生」について 有木宏二
スピノザの「哲学」についての浩瀚な研究書がごまんと書かれてきたことと比較すれば、その「人生」についての文献の少なさ──言うなれば、スピノザの人生(肉体)が、その哲学(精神)から、あたかもデカルトの心身二元論よろしく、ほとんど切り離されてしまっているような状態──は、しかしながら、案の定と言えるものである。数多くの研究者たちが人生論の湿地に足を取られることを回避したいがために、作品至上主義的な立場を採って、その哲学を偏重しているというわけではないだろう。むしろ、スピノザの人生と哲学の乖離は、その哲学の取り付く島のなさが招来している事態なのではないかと、訳者は強く思う。ひいてはその取り付く島のなさが、彼の「人生」を閉ざしてしまっているとも。(中略)
「スピノザの完全な伝記」である本書は、1999年の出版以来、比類のないものとしてありつづけている。(中略)本書は、主にスピノザに初めて接する読者や、かつてスピノザ哲学に取り組みつつ挫折した読者のために書かれてはいる。しかしながら、スピノザを「識る」という意味では、ただ単に裾野が広いだけではない、学術的に該博かつ高度な内容に満たされている。(中略)
淡々と──哲学的人生論ではなく──哲学と一体化した「人生」そのものが記述される本書の構成は、(中略)スピノザの生涯の記録に関する最新の知見のみならず、17世紀ネーデルラントのユダヤ文化についての最新の研究成果などが反映された結果である。
スティーヴン・ナドラー(Steven Nadler) 著者
ウィスコンシン大学マディソン校哲学科教授、同大学ユダヤ研究センター研究員。専門は、17世紀ヨーロッパ哲学。
主著として、「スピノザの異端説、魂の不死性とユダヤ人の精神」(Spinoza’s Heresy: Immortality and the Jewish Mind. - Oxford University Press, 2002.)などがある。
有木宏二(ありき・こうじ) 訳者
1967年、大阪府に生まれる。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。宇都宮美術館学芸員。主に西洋近・現代美術の展覧会を担当。早稲田大学理工学術院非常勤講師。専攻は美学・美術史。
主な著書、訳書として、
『ピサロ/砂の記憶──印象派の内なる闇』(人文書館、2005年/同書は、2006年第16回吉田秀和賞を受賞)、
『レンブラントのユダヤ人──物語・形象・魂』(S.ナドラー著、人文書館、2008年)など。